性風俗の現在

  • 2016.4.11
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1.風俗嬢と売春婦は別物なのか

性風俗と売春
性風俗に勤務している風俗嬢は売春婦なのか。
現役で活躍する風俗嬢の大多数は「自分は風俗嬢で、売春婦ではない」と思っているはずで、男性である客たちも「買春ではなく、風俗遊びをしている」という意識である。

実際はどうだろうか。

売春は「人類最古の職業」などとよく言われる。日本でも安土桃山時代に生まれた遊郭の遊女から始まり、戦後しばらくまでは現在のソープ嬢のように店で売春をする女性は「娼妓」、個人売春する女性は「淫売婦」などとも呼ばれていた。

現在に至っても個人で客を見つけて自由にカラダを売っている「売春」( 「ワリキリ」「援助交際」) よりも、性風俗届に管理されて働く「風俗嬢」の方が心なしかイメージはよく、歴史的にも個人売春をする女性を指す言葉に侮蔑やネガティブなイメージが込められるようだ。

しかし、売春婦の意味を調べると、「性的サービスを提供することによって金銭を得る女性を指す」とされている。
とすれば、風俗嬢との境界線はきわめて暖昧だ。現在、「性的サービス」は細分化している。様々な種類がある性風俗店で働く風俗嬢や、自分で客を見つけて個人売春する女性、AV女優やストリッパーなどエンターテイメント関係の仕事も、お金をもらい裸になって「性的サービスを提供する」仕事である。

「淫売婦」などという言葉が日常的に流通していたのは、戦争の傷跡が残って回全体が困窮していた時代である。女性がすぐに商品価値が認められる、性という最後の手段を売らざるを得ない一定層が存在して、貧困を背景にカラダを売る理由が存在していた。
つまりカラダを売る商売をすることイコール下流や転落の象徴であり、社会からの脱落を意味していた。だから中流以上の女性は決して手を出さなかったといえる。

ところが、近年、性に閲するビジネスの環境は激変している。
風俗嬢を筆頭とするカラダを売る女性たちは、社会を敏感に映す鏡である。

この数十年でテレビ、インターネットが登場し、メディアは発達して、人々の価値観は多様化し、社会や女性の意識は大きく変貌している。一億総中流と呼ばれた高度成長期を越えて、社会は成熟し、雇用や社会システムの崩壊から格差が広がっている。非正規雇用労働者、ワーキングプア、ブラック企業社員、介護職員、精神疾患患者、シング
ルマザーなど、様々な立場の人が貧困にあえいでいる。現在進行形で格差が進行して、戦後の貧困層と大差のない下層が生まれているにもかかわらず、その貧困は社会にあまり深刻に捉えられていない。

しかし、上層から脱落した女性を中心に、性を売る行為はだんだんとカジュアル化るようになっている。そして、風俗嬢たちは自らの仕事をポジティブなものとして捉るようになってきた。

 

この一五年で意識は激変
性を売る行為がカジュアル化した理由は二つあり、「女性の性に対する意識の変化」と「貧困の深刻化」である。

私の感覚だと、ブルセラ世代と呼ばれた1980年生まれが20歳になった2000年あたりから性の売買に抵抗のない女性は急増した。その後、数年間を費やして10代~40代の多くにその意識が浸透している。この期間に女性たちは性に対してポジティブになった。「肉食女子」などという一言葉が生まれたのも、そのあらわれかもしれない。

現在のように性風俗関連の仕事をポジティブに捉える女性が本格的に増えたのは、2008年の世界不況(リーマンショック)で雇用が本格的に壊れてからである。1990年代までは性を売る行為は転落の象徴であり、大多数はそこまで落ちたくないという意識がまだ根強かったが、その頃と比べて、意識はまったく変わっている。

「自分の才能や技術に対して、男性客が安くはないお金を払ってくれている。誰にも頼らずに生きているのだから、私は平均的な女性と比べても勝っている。むしろ上層にいる」という意識すら見られるのだ。

2000年代以降は友人の紹介だったり、求人サイトで自分の意思で応募をしたり、繁華街でスカウトされたりと、多くの女性が性風俗にポジティブに足を踏み入れている。

志願者が増えすぎたその結果、需要と供給のバランスが崩れ、今は以前のように簡単に商品価値が認められなくなった。つまり、女性なら誰でも参入できるビジネスではなくなったのである。

 

売春防止法が本番の価値を高めた

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細分化し、様々な種類の庖舗が存在する現在の形に至るまでには三つの転機があった。1957年に施行された「売春防止法」、1985年に「風俗営業等取締法」を大幅に改正し、「風俗営業適正化法」(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律。以下、風営法)が施行され深夜の営業が禁止されたこと、1999年の同法改正で性風俗府の届出が義務となってデリバリーヘルス(デリヘル)が事実上合法化されたことである。

売春防止法で売春は「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすもの」と、反社会的な行為として定義された。同法第二条には、「売春とは何か」の定義が次のように書かれている。

「『売春』とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう」

ここで言う性交とは「男性器を女性器に挿入する行為」、いわゆ本番行為である。
本番行為は反社会的な悪事とされたが、それ以外の性交行為は合法とみなされた。
撲滅すべきは本番行為のみで、本番を売る女性が違法な存在である売春婦となったのである。

この売春防止法以降から現在に至るまで、様々な本番をしない性的サービスが開発され続けている。

風俗嬢は売春婦かという問題に戻ると、「デリヘル」、「ファッションヘルス」「イメクラ」、「ピンクサロン」(ピンサロ)、「性感マッサージ」、「SMクラブ」など本番をしない非本番系の店に勤める女性は「売春はしていない」ということになる。

本番行為が前提の、「ちょんの間」、「本番サロン」(本サロ)、「デートクラブ」で働くことは、売春防止法に抵触する行為で「売春している」ことになる。

ソープフランドやAVは不特定の相手方と性交する 仕事に該当するが、ソープランドは女性に雇用関係がなく、店は女性たちに部屋を貸しているだけ、という建前が徹底されている。また、AVは映像を販売する前に警察関係者がかかわる映像倫理機構の審査を通すことによって、「モザイクの向こうでは本番をしていない」という建前で成り立っている。両者はグレイゾーンといえる(それぞれの業態については後で詳述する)。

実態はさておき、先いが防止法上はデリヘル、フアツシゴンヘルス、イメクラ、性感マッサージなど売春防止法上はデリヘル、ファッションヘルス、イメクラ、性感マッサージなど非本番系は合法となり、ちょんの間、本サロなど本番系は違法となる。風俗娘として働こうとする際も、また客として遊びに行こうとする際も、サービスに本番行為があるかないかが、一つの分岐点となる。

ただし皮肉なことに、賄博や違法薬物、禁酒法時代の酒などと同じく、禁止されていることは、逆に付加価値が認められやすくなる。その付加価値は地下経済の売買対象になりやすい。

本番行為は店や風俗嬢個人の商品価値が簡単に認められる切り札となり、非本番系風俗店や風俗嬢が集客のために有償無償で本番行為をオプションにすることは常態化している。非本番系風俗店で風俗嬢が個人的に行う本番行為の先買は、店は認知していないため、帳簿には載らない地下経済の範略に入る。こうした本番行為は違法とはいえ、すぐに摘発対象とされるものではなく、多くの風俗嬢は軽い気持ちで本番行為を売ったり、またリピーターになってもらうためのサービスとして客に提供したりしている。
当然彼女たちは自分がしていることが、「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良のの風俗をみだす」述法行為だとは夢にも思っていない。

そもそも一口に風俗嬢といっても、「本番店のある違法店に勤務する」「グレイゾーンの店で本番をする」「合法点で本番行為を個人的に売る」「合法店でリピーターを捌むため無償で本番行為をサービスする」「違法な本番は絶対にしない」等々、働き方はスタンスは個人によって様々で、現住、売春婦と風俗嬢の一線は極めて暖昧になっている。

また前述の通り、風俗嬢たちの意識は時代によって変貌する。
現在、風俗店には働きたい女性たちの応募が殺到し、風俗嬢たちは人としての尊厳を害されているどころか、志望者が増えすぎて働きたくても働けない女性も増えている。

スタート地点に立つまでに競争があるので、かつてのように貧困女性一般のためのセーフティネットとしては機能しなくなっている。風俗嬢と売春婦の一線は股昧になっているが、スタート地点に立つまで、客を獲得するために競争が生まれているので、性風俗店で活躍する女性を過去のように「淫売婦」「売春婦」などと呼ぶのは時代にそぐわない状況と言えるだろう。

日本の風俗嬢は合法、非合法に関係なく、風俗店や客に選ばれた女性しか就けない特別な職業になりつつある。